オナホ売りOLの平日

大人のおもちゃメーカーで働くOLのブログ。

ART-SCHOOLのライブを初めて見たこと

「元々は親会社がレンタル店やっていて。知らないと思うけど……」
取引先の言った店名でまっきーを思い出した。
「その店、あそこにもありませんでした?……沿線の……」
わたしは問いに取引先の担当者は「よく知っているね、もう潰れちゃったよ」と笑った。やっぱりそうだ。まっきーのバイト先だ。
 
まっきーは、同じ大学で、やたらバンドに詳しい男の子だ。いつもディスクユニオンの袋をぶら下げて大学に来ていた。わたしがジャーナリストかアナウンサーか、パパラッチか、報道の仕事の端っこに就職できればと思ってメディアと名のつく専攻を選んだように、もっちーは音楽の何かになればと思っているようだった。
彼は、音楽CDを借りるために、レンタルビデオ店でアルバイトしていて、いつもかっこいいバンドを探していた。彼はわたしに沢山のバンドを教えてくれた。KASABIANも、THE NOVEMBERSも、syrup16gも、まっきーが教えてくれた。ART-SCHOOLをいいねと、わたしが言うと、「いつか一緒にライブ行こうね」と言った。わたしは曖昧に笑って誤魔化した。当時、わたしは彼氏もいた。まっきーと二人で、ライブに行っていいのか分からなかった。彼氏がいることは言っていたはずなのになあ。そうやって思って少し困っていた。まっきーはバイト先に好きな女の子がいた。いつもその女の子のことを話していた。好きな女の子のシフトが減ってる、彼氏と上手くいってないと相談された……その一つひとつに、それなりの答えをわたしは用意した。
 
2023年6月18日、わたしは初めてARTーSCHOOOLのライブに行った。隣には、同じ高校だった友人がいる。彼女は、今の私が会う、唯一の高校の同窓だ。もう、彼女以外に呼ばなくなった名前で私を呼ぶ。高校を出た後、彼女は、わたしとは違う学校に進学した。ARTを「懐かしいね」と笑うけれど、その懐かしいは、わたしと重なってはいない。わたしは「すごくよかったね、昔を思い出す」と彼女に言った。
どうして今まで、ARTのライブに行かなかったのだろう。好きだけど、ライブに行くほどではないと思っていたのかな。行きたいと思っていたけれど、言うほど行きたくもなかったのかもしれない。私たちは、クロエやスカーレットをよかったね、と言い合って日曜日の夜、それぞれの家に帰った。
 
まっきーの話には、続きがある。まっきーはわたしを好きになった。大学の空き教室で好きだと言われた。私は彼氏がいたし、向こうにも好きな女の子がいた。それでよかったと思っていた。その後、なんとなく、まっきーと話すことが億劫になって、会わないようになった。教えてくれた音楽からも離れた。まっきーがバカにしていたような音楽を聞いて、それが好きな人たちと一緒にいた。そうやって、ART-SCHOOLも忘れていった。
忘れていった音楽をもう一度聞こうと思ったのがどうしてなのかは思い出せない。ただ、好きだった、ライブに行きたかったバンドを、このまま行かないで、死んでいくのは違うと思った。わたしは、まっきーの教えてくれたバンドのライブをいくつか見た。syrup16もTHE NOVEMBERSKASABIANも、そして、やっと、約束したART-SCHOOLを見た。良かったよ。彼が今、どうしているか知らない。聞かなくていいと思っている。きっと会ったら、彼とのやりとりを億劫に思ってしまうだろう。もし、思わなかったとしても、再び関係を構築して、その後、出来上がった関係性がまた崩れかけて……その出来事の一切を仕方なかったと思って忘れる、そんな行為をしたくはない。
ART-SCHOOLというバンドはとてもよかった。またライブに行くかも知れない。でもきっとそれは、約束した人ではない。