オナホ売りOLの平日

大人のおもちゃメーカーで働くOLのブログ。

大好きだったヤリマン悪女について

よくある悪口を聞いた。

離婚した翌月に別の男と旅行に行った女性の話。本人は婚姻時に二股はしてないと言っているが、次の恋人にはあまりに早すぎるのではないか。

「結婚しているときに付き合ってないって言っていたけど」

悪口の主はそんなことを言っていた。節操がない、貞操観念がない。そんな風に写るのは分かる。私自身に関係のないことだと分かりながらも、「わざわざ周りに言わなくてもいいことだよねー」と返した。

幸せを自慢したい、魅力的で、引く手数多だと思われたい。でも不貞をしているとは思われなくはない。そういった気持ちなのだろう。だが、自分の幸福をひけらかすことで自分のイメージを下げる。聞かれたとしても適当な嘘をついておけばいいのに、と思っていた。

 

◆清純で控えめなお嬢様を嘘で作った富小路公子

テレビドラマ化もされた有吉和佐子の小説「悪女について」の主人公、富小路公子は平気で嘘をつく。それも自分が魅力あると言うのではない。「モテない」と嘯く。

 

 

「あなた、若いのに、今から何を言っているの。結婚すればいいでしょう。あなたみたいに若くて綺麗ならプロポーズする人が、いくらでもいるでしょう」

「それが奥さま、全然ないんですよ。私って魅力がないんじゃないかしら」

「そんなことあるものですか。戦争で若い男が大勢戦死したから、結婚難だって新聞には書いてあるけれど」

「ええ、男一人に女はトラック一杯の割合ですって。私きっとオールドミスになってしまうんですわ。そんな予感がしますの」

 

その八 沢山夫人の話

 

そりゃ私、一緒に麻雀もしたし、旅行もしたし、サウナにも二人で裸になって入ったことありますよ。十年近い交際期間がありますよ。おいしいもの食べたり、夜中に長電話でお喋りしてましたよ。私自身もあの人とは大の仲良しだと思っていましたよ。

「私、めったに人に心を開くことのできない損な性格なんですけれど、あなたの前では気持ちがほぐれてしまうのね。不思議だわ。どうしてかしら」

と、よく言ってました。

(中略)

だけどさあ、私はあの子が死んで、週刊誌を読むまで、あの子が二度も結婚していてさ、しかも子供が二人いたなんてこと知らなかったんだよ。そんな親友ってある?

 

その十五 鳥丸瑤子の話

彼女の純朴さを信じているのは女だけでない。むしろ異性の方がその清純さを信じて疑わない。二人目の夫、富本寛一は、天涯孤独の孤児だと偽った公子に、実の母親と自身の子供がいると知って取り乱す。公子が処女ではないことが分かり、気が狂いそうになっている。

彼女に母親がいた。彼女は一度結婚して、二人の子供を産んでいた。それが分かったとき、僕は取乱しました。ぼくより前に、あの声を聞いた男がいたのかと思うと気が狂いそうになったのです。

 

その十四 富本寛一の話

 

上品で世間擦れしてないお嬢様という虚像を、嘘をつきながら固めていく。「舐められたくない」「下に見られたくない」という自分の虚栄心のための発言はなく、方々に「あなただけが頼りです」という顔をして、相手の警戒心を緩めていく。

鳥丸瑤子が「そんな親友ってある?」と憤ったように、彼女がいなくなって初めて、自分の思い込みに気が付く。

「悪女」と言われているが、彼女に罵られた人も、横柄な態度をされた人も、自慢話を聞かされた人もいない。部下にはキビキビと働く姿を見せていたが、それ以外の人には、物静かでおっとりした人と映っていた。困った顔で「まああ」と言う彼女のペースに乗せられ、結果的に不都合を押し付けられただけだ。

 

◆自由でハッピーなヤリマン女友達

わたしの周りに公子はいるか?そんな女がいたら怖くて仕方ない。だけどもしかして、公子だったのかもしれない子はいる。なっちゃんというわたし至上最強のヤリマン友達だ。

彼女と私は、クラブのテキーラガールのバイトで知り合った。わたしより一つ下のフリーター。郊外の実家に住んで、イベントのキャンペーンガールのアルバイトをしていた。

なっちゃんとはよく飲み行ったり、クラブに遊び行ったりしていた。彼女はよくナンパされて、すぐ持ち帰られる。だいたい帰ろうとする頃にはいない。ヤリマンだけど、早稲田だが、慶応だか、頭のいい大学の堅実な本命の彼氏がいて、自分は大学に行ってないのに、異性の大学名に厳しかった。

女の子数人で飲んでいるときに、ナンパしてきた男を「地味なのにチャラそう!●●大学ぽい!」とバカにしていたことがあった。彼女の言う●●大学は、当時わたしの通っていた大学で、そのことを告げると、見えないね!と笑い飛ばされた。わたしが男だったら、きっと相手にされない。

なっちゃんは本能のまま生きていた。いつも楽しそうで、ハッピーで、無敵だった。彼氏は高学歴がいい、でも、イケメンともヤりたい。自分の貞操とか、周りのイメージとか、気にせず、楽しい方を目指して生きていた。真面目な子が「そんなことして大丈夫?」と聞いてもヘラヘラ笑っていた。小心者のわたしがなりたくても、できない人生を生きているようで大好きだった。

大学を出て、バイトも辞めて、1年ぐらい経ったころ、なっちゃんは突然すべてのSNSから消えた。バイトの友達は、みんな、なっちゃんと音信不通になった。

なっちゃんがわたしに、彼氏とか、友達とか、バイト以外の知り合いを紹介したことはない。それどこか、自宅の最寄り駅も、源氏名だったから本名も教えてもらえなかった。わたしは彼女のことを何も知らなかった。

地に足着いた生活と、わたしたちを切り離して、ヤリマンであけすけな女として振舞っていた。

 

富小路公子の悪女の部分

「悪女について」の終盤、長男の義彦が公子を語る場面で、公子の虚像は崩れる。公子は、義彦の恋人の実家に乗り込み、義彦は名門のお嬢さまと婚約していると捲し立てる。さらに義彦がいかに優秀であるかを語る。

婚姻届をする前後から、母の猛烈な嫌がらせが始まっていました。まず耀子の実家に乗り込んで、「富小路公子でございます。鈴木義彦の母でございます。お宅のお嬢さまが私の長男と結婚なさりたいようですが、義彦は学習院におりました頃から、名門のお嬢さまと仲良くなっておりまして、先方さまでは、ご両親とも大乗気で、東大に入る前に婚約でもということで、教会で婚約式をいたしました。(中略)折角ここまで女手一つで育て上げましたのに。東大でも何十年来の秀才と言われて、教授たちから嘱目されていましたから、義彦は学者にするつもりでおりましたのに、それが勝手に就職口を探して、お宅のお嬢さまと将来は共稼ぎするだなんて」

 

その二十四 長男義彦の話

 

耀子の両親も、耀子自身も、最高に頭にきたのは「お宅のお嬢さまが私の長男と結婚なさりたがっておいでのようですが」とか「まさか、お宅のお嬢さまが、私の財力をあてになさったとは思いませんけれども」という、母のやんわりした言い方のようです。

 

その二十四 長男義彦の話

 

自分の思い通りにするために、一方的に、自分の息子の優秀さを語り、財産目当てではないかとねちっこく遠まわしに言う公子は、それまでにはない姿だった。貞淑で物静かで控えめなお嬢様ではない姿を公子は持っていた。

これより前にも、公子がこんな姿を晒す場があったかもしれない。だけどきっと、晒された人物がいたとしても、公子の生活から切り離されたどこかだ。だからこそ、物語終盤までその姿が見えなかった。

もしも、なっちゃんが今、不慮の死を遂げても、なっちゃんを調べる人は、わたしにはたどり着けない。「悪女について」の物語に書かれなかった、公子が本心を預けた人のことを考えている。