ゾス???
言葉の意味が分からなかった。
テレビを見ながら考える。ゾスって何?
最近見た、お笑い芸人ロングコートダディの万引きのコントみたいだった。コントの中では、スリルが欲しくて万引きした主婦と、スリルの意味が分からない店長が出てくる。
「スリル……とはどう書くんですか?漢字は?」
「スリルとは、あなたにとっての神様みたいなものですか?」
「この商品がスリルなんですか?」
店長役は要領を得ない質問を繰り返す。テレビを見ながら混乱する自分は、コントの中の店長に自分みたいだ。
ファッションゾス?ゾスに染まりきれてない?ゾスは概念?でも?画面の中で、ゾスゾス言い合っている。ゾスってなに??理解できない。これは薬物や新興宗教の被害者の話ではなく、企業のドキュメンタリーなのに。
ザ・ノンフィクションの「今どきじゃない会社で夢みる僕と私の新入社員物語」を観た。
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テレビの中の企業は、挨拶が『ゾス』だ。お疲れ様です、おはようございます、はい分かりました、全て『ゾス』で通じている。
それだけじゃない。ゾスを概念のように語る。退職した社員にインタビューすると「ファッションゾスだった」「ゾスに染まりきれなかった」と語る。え、なに?コント?ドキュメンタリーと銘打ったコント?だけど、ノンフィクション――事実だ。「ゾス」の会社は、存在するし、『ゾス』の挨拶もみんな言い合っている。
◆異様に見える『ゾス』の世界
『ゾス』の会社は元気がいい。
朝礼では叫び、テレアポではハイテンション、飲み会では歌い、踊る。
「ありがとうございます!!!!社長!!石原さとみが来ると思って楽しみにしていてください」
トップ営業マンの女性は、元気よく電話口で話していた。テンション高い……正直、友達がこんな感じだったらウザいな。だけど、わたしは、この風景に既視感があった。わたしが大学をでて最初に入った求人広告の代理店そっくりだ。
mochi-mochi.hateblo.jp
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わたしの昔いた会社の営業たちは、テレビの中の営業たちのように、ハイテンションでテレアポをする。「お世話になっています!!!」という声がフロア内から幾つも響く。近くで聞いていたら、耳が痛くなるような声量だ。
営業マンたちは常にテンションが高く電話をして、アポイントのためにフロアを飛び出していく。元気がいい、と言えば、聞こえがいいけれど、暑苦しいとか、うるさいとか、そんな形容もできる人たちだった。そして、成績のいい営業マンほど、テンションが高かった。
わたしのいた会社では『ゾス』とは言ってなかったけれど、この雰囲気が『ゾス』だと言われたら納得できる。テンション高く、暑苦しい営業マンたちのいる雰囲気。馴れ馴れしくて、うるさくて、ウザいけれど、元気がいい雰囲気。それが『ゾス』ということか?そして、その雰囲気『ゾス』を合言葉のように、挨拶にも使っている……のか? なんとなく『ゾス』を理解した気がする。そして、彼らのようなビジネスマンと接していて、気持ちがいい、元気になれるという経営者たちもいるだろうことも想像できる。
◆傍で見ていた『ゾス』の世界
わたしは『ゾス』の雰囲気の会社に馴染めなかった。今でも苦手だ。番組を観ながら、昔を思い出し嫌な気分になった。
テレビの中の会社は、ハイテンションで、勢いのあり、社員同士の距離が近い。一方で、成績が振るわない社員には厳しい。番組の中でも、ノルマ達成できない社員が他の社員の前で糾弾されるシーンがあった。ノルマを達成することが正義で、それができないと高圧的に糾弾される。
それはわたしの昔いた会社でも同じだった。受注件数はホワイトボードに張り出され、達成率を朝礼で発表する。出来ない社員は恥をかき、上司からは糾弾されることもある。
わたしは制作職だったので、営業ノルマはない。それでも、『ゾス』の文化に対して、いい印象は持てなかった。営業社員がノルマに追われ、糾弾されている姿を横目で見ながら、「怖い」と思っていた。わたし自身も広告の制作数というノルマに追われ、精神的に追い詰められていった。
◆『ゾス』が活きる場所
だけど、その『ゾス』な雰囲気にいた経験が活きたことがある。それは営業職に就いてからだ。著作にも書いたが、元々営業志望ではなかった。
営業職の同僚が退職し、成り行きで営業になった。
自分に適正があるとは思えなかったが、それでも10年も営業を続けられたのは、見本としてのあの会社の『ゾス』な人たちがいたからだと思う。
わたしの考える営業マンのイメージが、元気よく、テンション高く、若々しいという像だった。わたしは、営業の最中に、昔見た『ゾス』の人たちを演じていた。
至らない部分も多い営業だったと思う。細かなミスはいくつもした。それでも、営業先で嫌な思いをすることは少なかった。大半はよい思い出で、営業先の人にはよくしてもらったことばかりだ。成り行きで営業になったわたしだったけれど、明るく、元気のいい営業を演じきったから、10年も営業で楽しくやりきることができた気がしている。
エロビデオの営業は特定の販売店を巡るルート営業だ。飛び込み営業は少ないし、第一印象の良さだけで判断されるわけでもない。それでも、元気がいい、勢いがあるは、長所になる。その見本として『ゾス』の営業マンたちがいたのは、わたしにとっては助けになった。
◆今に最適化した『ゾス』はないのか?
役立つ部分もあったけれど、わたしは、昔いたあの会社に戻りたくはない。在籍中は、精神的に追い詰められていて、退職した直後は、恨んでもいた。社員同士の距離が近く、テンションが高く、一方で、結果がすべてで、成績の振るわない人は糾弾する。そんな文化は間違っているし、危険だとも思う。わたしのように追い詰められる人もいるだろう。なかには、退職後に逆恨みする人もいるかもしれない。
わたしはあの番組を観て思ったのは『ゾス』をブラッシュアップした方がいい気がした。たしかに、元気よく、テンションあげて、何十件もテレアポする、その営業手法が結果がでやすい。だけど、それを出来ない人、やっても結果が出ない人をフォローする仕組みも必要なのではないか。ただただ糾弾し、ついていけない奴は辞めろと言う。そんな風に、振り落とされた人たちの人生を踏みにじってもいいとは思えない。
元気がよく、夢中になり、転んだ人にも手を差し伸べる組織だったなら、わたしも嫌いにならないですんだのかもしれない。ゾスの文化がブラッシュアップされた企業はこれからどこかで出てこないのか。