オナホ売りOLの平日

大人のおもちゃメーカーで働くOLのブログ。

女の子の寂しさを埋めるための「推し」

中上健次の岬を読んだ。作中の男女は、つがいになっては子供を産み、すぐに別れ、家族の中には幾人もの異母兄弟、異父兄弟がいる。歪な人間関係だが、文化も、貞操も、ない人間たちはこのようなコミュニティを築くものなのかもしれない。一昔前の日本の地方ではよくある光景で、人間の根本のような社会なのだろう。

 

 

主人公、竹原秋幸の異父姉の夫、実弘の妹に光子という女がいる。光子の夫、安雄は、光子の恨みに加担する形で、実弘の兄、古市を刺殺する。逮捕される安雄に光子は待っていると約束する。だが、話の最後、別の男とつがいになる。誰かと一緒にいないではいられなかった。男が誰かとセックスしたい欲求、自分を受け入れられたい欲求に振り回されるように、女は寂しさを埋めたい欲求、だれかとつがいたい欲、特定の誰かの特別になりたい欲に振り回される。寂しさを自制できない女は、自分の大切なもの、今の生活や家族や堅実な日々を捨て、安易につがいになれる誰かを探す。岬の光子がそうであったように。女の人は寂しさに振り回される。その欲求を埋めるために、作られた商売が今の時代多い。

先日飲みに行った際、知人の親戚女性がメンズ地下アイドルにハマっていてと話していた。「適度にハマるならいいんじゃないですか」とわたしは言った。それが楽しみのひとつになるなら、いいと思う。だが、適量ではないらしい。当該の彼女は20代半ば。医療系の仕事をしていて、安定した収入はあるがそれでは足りなくて、副業でキャバクラのバイトを始めた。明け方に帰る日々が続き、同居する家族も心配している。家族はアイドルへの過度な支出をやめてほしいと思っているが、本人には伝わらない。アイドルに認識される、覚えてもらえる、それ以上にもなれる。お金をかければかけるほど、対象との距離は縮まる。それが中毒になり辞められない。

 

◆女の子こそ推し活は適量に

わたしは、AVの営業で、推しコンテンツを提供する側の人間だが、それでも、推し活は適量で、と思っている。自分の経済の範囲を超えて、応援してはいけない。AV女優のファンの中でも、過剰に思いを注いで、恨みを持ってしまい、女優を傷つけようとした事件もあった。そこまで行く前にブレーキをかけなくてはいけない。

mochi-mochi.hateblo.jp

 

推し活は適量に。それは男女ともに言えることだけれど、わたしは、特に女性に伝えたい。理由は二つあって、ひとつは、女性は、仕事を変えることで、大金を手に入れやすいからだ。前述の知人の親族もそうだろう。キャバクラという水商売をして普段以上の金が手に入ってしまう。水商売だけでなく、性サービス業であればもっと短時間で、大きな金を稼げる。わたしは、この業界に入り、性を提供する対価を具体的に知った。吉原の高級店で、1回のサービスで7万円する店もあると聞いたことがある。1人2時間だとして、1日4人相手して28万円、働く女性に入る金額が半分だったとしても14万円。1日、14万円。それは、わたしの大卒最初の手取りとほぼ一緒だ。リーマンショックでロクな働き口もなく、仕方なしについた広告制作のアルバイト、そのひと月分の給料を1日で稼ぐ。1日14万円を20日続ければ一カ月280万円。男性で、月収を280万円増やす転職は滅多にない。これは女性だからできる収入の増やし方だ。

だが、安易に性を提供することを良いと、わたしは思えない。今AVの仕事をしていて、AVを辞めた後に後悔する女性を幾人も見ている。それは、他者から強要されたなど、どうしようもない理由で出演した人だけでない。自分の意思で出演し、出演した当時は苦痛なく仕事していた人であってもである。人生の変化にともなって、過去に性を提供したことを、やらなければよかったと思う。仕事として性行為をすることは、10年後、20年後に、自分の人生の足枷になるかもしれない。

mochi-mochi.hateblo.jp

 

◆寂しさに支配されて自制心を失う

そして、女性に、推し活は適量に、と言いたい二つ目の理由は、女性は寂しさに支配されてしまいやすいからだ。中上健次の岬にあったように、女性は、誰かの特別になりたい欲求に振り回される。刑務所に入り一緒にいられなくなった夫を待てず、別のつがいの相手を選んだ光子のように、自分にとっての特別を探してしまう。

男性の多くは、自分を受け入れてもらえたと思えた段階で、欲求にブレーキがかかる(だからこそ、推しの側は、受け入れてもらえそうで、もらえない状況を維持する)。対照的に、女性は、常に特別であり続けたいし、認めてもらい続けたい。相手の特別で居続けるために、対価を払い続ける。関係を維持する対価を支払ってくれるから、「推し活」という商売が延々に成り立つ。関係性の維持のため、特別でいるために対価を払い続ける。

昨今、ホストに規制をかける動きが進んでいる。規制の方法に議論の余地はあるだろうが、わたしは、これ自体はよい動きだと思っている。

www.yomiuri.co.jp

 

キャバクラなど男性をターゲットにした商売も同様に規制をという意見もあるが、やはり、これは別に考えたほうがいいと思っている。女性は、お金を作りやすくて、かつ、無尽蔵に対価を払い続けられる。愛し続けられる。だから何か、せき止めるためのものが必要だ。

そして、同時に、推しにハマる女の子たちに、自制心を持って賢くなって、と老婆心ながら思ってしまう。寂しいという気持ちに振り回され、他のすべてを放り出してしまう彼女たちの行っていることは根源的欲求に振り回される動物のようだ。

文芸批評家の江藤淳は、中上健次の岬に関して「ここに描かれているのは、ほとんどけものじみた世界である」と評した。誰かの特別になりたい、つがいたい、認められたい、そんな欲求に振り回されて、生活をダメにしてしまうのは獣じみた行動だ。周囲の助けの手を借りながら、彼女たちが人間らしさを得てほしいとわたしは思う。