オナホ売りOLの平日

大人のおもちゃメーカーで働くOLのブログ。

裸になる誘惑に抗う

「女の人のおっぱいをいつもシュレッターにかけています。どうして自分がかけられる側じゃないか考えています」

 

映画「グッドバイ、バッドマガジン」の劇中、主人公のエロ本編集者、詩織は、仕事で扱う女の裸が、どうして自分のものではないのかと、自問する。そして、なぜ人はセックスするのかを考える。

www.gbbm-movie.com

 

劇中、詩織に「なんで人はセックスするのか分からない」と打ち明けられた、元AV女優でライターのハルは、答える。「分からないのは、詩織ちゃんが服を着ているからじゃない」

セックスをする理由が分からないのは、自分自身が、服を脱がないからだ。服を脱げば、裸になれば、分かることがある、見える世界がある。そういった、「脱いだら分かる」「脱いだ方が良い」「脱いだ方が偉い」というイデオロギーが裸を売る世界にはある。

 

◆裸になる側とならない側の間にある壁

2015年から、エロを仕事にしている。もう7年も経った。7年この世界にいて、脱ぐ側とそうでない側には大きな壁があると、わたしは感じている。そういった隔たりを感じているのは、脱がない側にいる私だけではない。AV男優の森林原人さんは著書「セックス幸福論」で語っている。

 

セックスを人前でしてしまうという価値観は、どの時代、いかなるコミュニティでも常識外れです。AV業界内ですら、出演者というのはどこかしら特別視されていて、パンツを脱ぐ人と脱がない人の間には一線が引かれています。裸産業ということで一緒くたにされているAVと風俗ですが、厳密なことを言えば、セックスを見せてお金をもらう出演者と、セックスをサービスとして提供しお金をもらうサービス業ではセックスの意味合いも違います。しかし、傍から見れば、どちらもセックスを通してお金を得ているわけで、どちらも身体を売っていると言われてしまう行為です。自分の子供が、その体を不特定多数の人間に提供したり裸を晒す仕事に就くことを喜ぶ親はなかなかいないでしょう。体を売るということは、その体を粗末にしているようだし、できる限り大切にしてほしいと思うのが親として当たり前です。

 

セックスを人前でするという価値観は常識外れである、そして、親であれば、それをして欲しくないと思うのは当たり前。実際に、人前で裸になり、セックスをするAV男優であっても、そう考えている。一般の倫理感では「やってはいけない」とされる行為。人々がやりたがらない行為。だからこそ、「裸になれば偉い」「裸になれば見えるものがある」と言われる。それはそれ相応のリスクや負担があるという側面でもある。

 

森林さんのように、相応のリスクを理解し、分かった上で裸になるのであれば、素晴らしいと思う。しかし、そうではない人も中にはいる。ここ数年AVを出演した演者が作品の販売を辞めるように依頼する「取り下げ請求」ができるようになった。元々は、AV出演強要問題の被害者になった方を救済する目的であったが、取り下げを求める人は、それ以外にもいる。自分の意思で出演したが、5年、10年後、AVに出たことが人生の足かせになり、出演作の販売を停止するように依頼する。自らの意思で裸になったことを、後悔する人もいる。

 

◆本当に後悔しないのだろうか

「あの人、男優もはじめたんですか?」

わたしは思わず、聞き返した。何度か会ったアダルト動画の関係者の知人が、男優業も始めた人づてに聞いた。わたしは少しショックだった。彼に特別な感情があったわけではない。そこまで親しい側ではなかった。ただ脱がない側で戦う人だと思っていた。

出演強要など、AV業界の問題が露呈したこともあり、女性がAVに出て、セックスをすることに対してのマイナスイメージは強くなっている。悪く思われている分、出演を決める際に、本当にやっていいのかと、考える時間ができる。AV女優になる際のストッパーは強くなる。一方で、AV女優として以外の手段で裸になる際のストッパーは少ない。

AV男優の場合、制作者が男優も兼任していることもある。制作費はどんどん削られ、利益は少なくなる。その中で削れる費用としての男優ギャラを選び、自ら裸になることもある。

AV以外でも、裸になる人たちはいる。同人AVと言われるジャンルで、セックス動画をネット上で販売しているカップルが話題になっていた。彼らはどこまで「裸になるリスク」を認識しているのであろうか。5年後、10年後、後悔しないと言い切れるのだろうか。AVの取り下げ請求ができるようになった今でも、違法にアップロードした動画など消えない映像はある。一度、公に晒した裸体を全て消すことなどできない。それでも、裸を晒す仕事をしたいのか。

 

「脱いだら分かる」という考えの背景には、森林さんの言うように「常識外れ」とされて、他の人がやらないからという側面がある。他の人がやらないからこそ、普通の、一般の人が見えない世界が見える。だけど、そのメリットの反面、リスクや負荷も大きい。それでも裸になりたいか、ということを問い、裸になったときに得られるメリット、裸になる誘惑と、天秤にかけなくてはならない。