オナホ売りOLの平日

大人のおもちゃメーカーで働くOLのブログ。

カマナ・ハリスに続く普通の女の子はいるのだろうか

1年ちょっと前。営業先の店舗で、他のメーカーに女性営業が入ったという話を聞いた。わたしよりもずっと若くて、AVが好きでこの業界に入った女の子。

「堀江さんの本も読んだって言っていて、会いたがっていましたよ。堀江さんに、憧れているって言ってましたよ!」 

何店舗か、彼女とわたしの共通の担当店舗があって、営業の合間に彼女の話題が上がった。わたしの書いた本を読んでいると聞いてうれしかったけれど、わたしから「紹介してください」と言ったら、本を読んだと聞いて思いあがっていると思われるような気がして、ちょっと恥ずかしくて「いつかお会いしたです」と話題を終わらせた。

少し前に、彼女が辞めてしまったことを聞いた。ちょうど営業に行った日に、この後、彼女の在籍したメーカーの営業が来るというから、やっと会えると思った。「あの女の子営業さんですか?」そう尋ねるわたしに、「あのこ、辞めちゃったみたいですよ」と仲のいい担当者は返した。そのあと、わたしと同じ歳くらいの男性の営業マンと名刺交換した。印象のいい青年だった。彼ならばきっと長く続くだろう。

 

◆聞くべき助言と受け流していいと助言

「女の営業はすぐ辞める」という言葉を何度も聞いた。わたしに直接言ってきた人もいるし、人づてに言っていると耳にした人もいた。近しいと思っていた人も、わたしに対してそう、言っていたと聞いた。彼と話す時、「わたしもすぐいなくなると思っているのだろうな」と思いながら、なんてことない話を今もしている。

この業界で仕事をして、偏見を感じたことはそれだけじゃない。昔、このブログにも書いたけれど、「口説いてきたらどうするの?」と言ってきた同業の営業がいた。この人は自分の営業先の担当者は、女の営業がくれば口説いているとか、それだけで発注多くするとか思っているのだろうか。

わたしは、取引先から、セクハラを受けたと感じたことはほとんどない。営業中に隠語がでてくることはよくあるし、それもセクハラにカウントしたら数え切れないほどあるけれど、恋愛対象として口説かれたり、言い寄られたりはしない。性的な関係を迫られたこともない。そんなくだらないことで困ったことはない。それでも、同業者ですら、そう思うのかと思うと残念でたまらない。

mochi-mochi.hateblo.jp

 

 この業界に限らず、女性の少ない業界でやっていくと、実際のハラスメントと戦う場面ばかりでなく、偏見と戦う場面も多くある。軽く見られたり、偏った認識をされたり、先入観を持たれたりしがちだ。もしかしたら、ハラスメントに苦しむよりも、偏見と戦う場面の方が、ずっとずっと多いかもしれない。

 

◆先入観はアダルト業界以外にもある

以前、わたしは人見知りだった。営業職について、だいぶ改善されたけれど、昔は人見知り故に、勘違いされらことが多かった。人と上手く話せず対面の印象がよくないので、偏見を持たれがちだった。以前は、女だからでなくて「大人しい」とか「容量が悪い」とか、そういった特色からくる偏見だったと思う。

新卒で入った会社で、「やる気がない」とか「成長が遅い」と当時の女性上司から言われた。今思えば、わたしは、たしかに広告のライターとしては力量が不足してきた。クライアントの求める文体を再現できなかったし、誤字脱字も多かった。だけど、技術として足りない部分を、わたしの人間性の問題のように言うのはおかしいと、今は思う。今はだ。今振り返れば、彼女の指導……と呼んでいいかわからないけれど、注意の仕方は正しくなかったとわたしは思う。だけど、当時はわからなくて、追い詰められて、精神的に参ってしまった。

そんな経験があるから、今回の「女はすぐやめる」とか「口説かれる」とかそんな偏見も、役に立たない意見だし、適当に流せばいいものと思いっている。自分のコンプレックスを埋めたいとか、下に見られる人を見つけたいとか、そんな言っている側の欲求が透けて見える。大した意味なんかない。言いたいから言っている程度だろう。

仕事の仕方が間違っているならば変えたほうがいい。しかし、人間性や生まれ持った特色まで変えようとする必要はない。すぐ辞めるとか、女だからとか、そんな意見を、バカバカしいと思ってわたしは受け流したけれど、私よりずっとずっと若い、その女の子の営業が受け流せていたかはわからない。それに、もしかしたら、わたしも新卒でこの業界に入っていたらライター時代と同じように参ってしまったかもしれない。

自分の本を読んでもらって思いあがっていると見られても、紹介してほしいと熱心に頼めばよかった。話を聞いてあげたらよかった。今更、そんなこと思っても遅い。

 

◆強くて特別なカマナ・ハリス

最近、アメリカの大統領選で、カマナ・ハリスが黒人女性初の副大統領になりそうだとニュースで見た。彼女の演説はとても素晴らしくて、わたしは、大統領候補のジョーバイデンの演説よりも感動してしまった。新聞が和訳が載っていたので、一部転載したい。

ジョーは人格者です。なんと言ってもジョーはバリアを打ち砕くことができました。女性を副大統領候補に選んだのです。私が初の女性副大統領になるかもしれませんが、最後ではありません。すべての幼い女の子たち、今夜この場面を見て、わかったはずです。この国は可能性に満ちた国であると。

私たちの国の子どもたちへ、私たちの国ははっきりとしたメッセージを送りました。

www.tokyo-np.co.jp 

 

 

そうだね、そうだ。最後の女性副大統領になってしまってはだめだ。

だけど、一方でわたしはハリスに対して、少しだけしこりを感じている。先日、新聞を読んでいたら、彼女の両親はどちらも学者で、彼女自身も高い教育を受けてきたと知った。大統領候補になるジョー・バイデンが、ボイラー工や中古車販売業を転々とする父親に育てられたのとは対照的だ。

ハリスは、恵まれた状況――学問に理解あるな両親と、勉強できる環境の中で育った。さらに、カマナ・ハリスは2014年まで結婚することはなかった。夫のダグ・エムホフは再婚だが、カマナ・ハリスにとっては初婚だ。

www.afpbb.com

 

学問に理解ある恵まれた環境で育ち、そのうえ、結婚やプライベートな充実を捨てる覚悟を、50歳まで持っていた黒人女性――特別な、強い黒人女性。カマナ・ハリスは自分に続いてくれと女の子たちに言うけれど、彼女のような特別な女の子はいるのだろうかと、新聞を読んだあとにふと考えてしまった。

 

◆特別ではない人でも居られるように

わたしもそうかもしれない。この仕事をして、「偏見」による居心地の悪さややりにくさは感じた。だけど、図々しくも居座ることができたのは、やはり、この仕事に就くまでの経験――ライター時代の挫折や失敗があったからだ。そういう意味では、他の人にはない「特別さ」があったかもしれない。

そしてさらに、わたしは、物を書けたというのも大きかったように思う。本を出してから、以前よりも周りに受け入れてもらえるようになったとわたしは感じている。実際は営業の仕事とは関係のないスキルなんだけど、「本を書いた人」となって「特別枠」になれた。店の人はもちろんだけど、わたしのことをすぐ辞めそう言ってきた人も、本心かわからないけれど「すごいね」と言ってきたりした。特別枠だから、居ても許される。だけど、そんな飛び道具を持っている人ばかりではないとも思う。

普通に日々の営業業務を一生懸命やれば、偏見を持たれなくていいはずだ。だけど、実際はそんなことなくて、わたしの後、アダルドグッズやビデオの営業職について続けてくれる女性はなかなか見つからない。

カマナ・ハリスにやってほしいのは、彼女と同じように、特別で強い女の子を探し、彼女の後をつかせることではない。ハリスが、特別で強いゆえに乗り越えることができた障害をひとつひとつ取り除いていくことだ。普通の女の子が、がんばれば上を望めるそんな環境がきっと必要だと思う。カマナ・ハリスに続く普通の女の子を見たい。