オナホ売りOLの平日

大人のおもちゃメーカーで働くOLのブログ。

中村敦彦は名前のない女たちをもう見つけられない。

前のブログでも書いたのですが、中村敦彦さんの「AV女優消滅」を読みました。わたしの知らない意見も多く、勉強にはなったのですが、なんとなく読後感がすっきりしない。それは、中村敦彦さん自身が多くのトラブルを引き起こし、「この人が書く内容だから信用できないな」と思わせてしまうからかもしれない。
 
  
今年の9月、中村さんは著作「名前のない女たち」の映画化において、インタビューした女優の情報を本人に確認なく映画にし、インタビューした女優との間で問題が起こりました。
 
 
現状、このトラブルが解決した様子はありません。この炎上問題以降、中村さんのツイッターは鍵をつけ、彼の認めたフォロワー以外は見られない状態です。限定公開されたままのアカウントでは、「名前のない女たち うそつき女」の公開をしらせるツイートが流れています。
 
こういったトラブルがあった以上、著者への先入観がどうしてもでてしまう。とくに、対談部分以外の、中村さんの主観で描かれる部分に関してはバイアスがかかっているように疑わざるを得ない。
 
AV出演教養の問題について、頭を低くして嵐が通り過ぎるのを待っていたり警察OBに泣きつけば何とかなると言う意識の人が多いのも事実だと思います。
 
「AV女優消滅」にはこのような記載があります。だけど、頭を低くして、嵐を通り過ぎるのを待っているのは、中村さん自身ではないでしょうか。
 
長年関わっていた筆者を含めて、才能や能力がない人物が女性の裸やセックスの力を借りながら、なんとか価値のある商品を作っている。そして生活をしている。裸になってくれるAV女優の力を借りなければ、多くのAV監督、AV男優、メーカー経営者、プロデューサー、専門雑誌編集者、AVライター、プロダクションマネージャーあたりは、とても生きてはいけない。
裸のない世界では商品を作ることができない。

 

「AV女優消滅」の最後にはこんな一文がありました。もちろん、業界がすべて正しいことをしているわけではない。人間性に問題ある人もいるかもしれない。だけど、2002年に「名前のない女たち」を出版してから15年以上、この業界に居続けながら、なぜ、業界から去ることも、問題提起することもせず、現状維持で居続けたのだろう。そして、なぜ、業界への批判が強まった今のこのタイミングで、業界の人を卑下するような言い方をしたのだろう。彼自身に疑問をぶつけたくなる。
 
彼の本を読んでいると、ペンの力で誰かを傷つけ、ボロボロになっていく様を見るショーをみているようになるときがある。クラスの隅でいじめられているクラスメイトを見ているよう。それは、ジャーナリズムでもなんでもなく、ただの見せしめでしかない。中村さんの本の感想を読んでいると、わたしと同じ意見を持つ人はいるようです。
偏見と憶測でしかない側面が強く、客観性を欠いているように思われるからです。

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そして、中村さんが書いた内容が、不幸を楽しむ人のズリネタになっている悲惨な現実もあります。
 
 
対象が「企画AV女優」→「貧困風俗嬢」→「介護職の職員」→「AV業界」と変わった以外はなにも変わらない。なにかを悪く書き、可哀相だね、ひどいね、と広めるペンの力を使ったいじめ、見せしめエンターテイメント。だけど、そんないじめショーに読者が気が付きつつあるとき、彼は仕事を失うでしょう。
 
以前、部落差別を露わにした記事や盗用が問題となり、ノンフィクションライター佐野眞一氏はノンフィクション賞選考委員を辞め、数年間は著作も出しませんでした。不誠実な物書きは仕事を失う。
 
個人的には、佐野眞一氏 の著作は素晴らしいと思います。取材対象のくまなく調べ、掘り下げる。ノンフィクション巨匠と呼ばれるのも納得できる作品です。そんな佐野氏でも不誠実な作品を出せば世間が認めなくなる。中村さんでも例外ではないでしょう。
 
何を書くかだけでなく、だれが書くかでも読み手は判断する。読者は愚かではない。「あの人が言うことだから、偏っているよ、間違っているよ」そう言われるようになったとき、中村さんのいじめショーは成立しなくなる。
 
少しだけ話は脱線するけれど、私がこの業界を目指したきっかけになったAV女優という本があります。永沢光雄氏が、オレンジ通信、ビデオザワールドといったエロ本でAV女優にインタビューした記事を集めた文庫本。
 
 
巻末には大月隆寛さんによる筆者へのインタビューが掲載されています。90年代に一斉を風靡したAV女優、黒木香があるインタビューの直後に宿泊先の宿から飛び降りたということに関し、永沢さんはこんな風に話しています。
あれ読んで、なんか、いじめ以外の何物でもないなぁ、なんでこの状態の彼女にこれだけしゃべらせなきゃいけなかったのかな、なんで女の人って優しくないんだろう、って思った。 3時間でも 4時間でもお話ししたんだから、その人がこれから元気になるようなものを書かなきゃしょうがないだろう、と。とにかくあそこまでしゃべっちゃう人なんだからそういう状態なんだからこっち側で書いちゃいけないところ考えて守ってあげないといけないのに。
そのあと、永沢さんはこんな風に続ける。
ほら、なんていうか、嬉しくなる話ってあるじゃないですか。僕はそういうのが聞きたいんですよ。
「AV女優」をきっかけに、AV業界に入ったという人はよく会うけれど、「名前のない女たち」をきっかけに業界にすすんだ人は聞かない。誰かのきっかけになるような「嬉しくなる話」ではないのかもしれない。中村さんの書く嬉しくなる話が読みたい。