オナホ売りOLの平日

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「全裸監督」では見えなかった村西とおるの光と影

「監督、また一緒に仕事しましょうね、約束ですよ、ゆびきり」

冨手麻妙演じるAV女優、奈緒子は、山田孝之演じる村西とおるに小指を突き出す。無言でつきだした村西の小指と、奈緒子の指がつながる。撮影後の熱気を帯びた打ち上げシーン。NETFLIXで配信されている映像作品「全裸監督」の一場面。

 

知人に勧められて「全裸監督」を観た。おもしろい。全八話を一気に観た。福島の貧乏な家に生まれたサラリーマンが女の裸で成り上がるサクセスストーリー。何も持たなかった主人公たちが飛躍する流れは観ていてワクワクする。面白い。面白いけれど、腑に落ちない。これは、AV監督、村西とおるがモデルなんだよな……。脚色もあるだろうが、事実が元になっている。村西とおるが海外で逮捕された話も、ビニ本販売書店を大きくしていったのも実話だ。

 

◆AV女優だった黒木香のその後

「全裸監督」にでてくる黒木香も実在する。そして彼女は、AV監督村西とおると深い仲になり、その後、宿泊していた宿から飛び降りている。永沢光雄さんの「AV女優」の巻末。大月隆寛さんが永沢さんにインタビューした章にはそのときの黒木さんの様子が書いている。

それは失踪して数年、写真誌にスクープされてからすぐのインタビューだった。インタビュアーは女性ライターで、テキスト自体は確かに力の入った長いものだった。だが、その記事が出た直後、彼女(黒木香)は泊まっていた宿の窓から飛び降りた。自殺未遂説も流れたが、いまだに真相はわからない。わかっているのは、そのようにメディアの視線に再び捕捉された時点での彼女の精神状態が極めて不安定であったことと、飛び降りた結果、瀕死の重傷を負ったことだ。

「あれ読んで、なんか、いじめ以外の何ものでもないなあ、なんでこの状態の彼女にこれだけしゃべらせなきゃならないのかな、なんで女の人ってやさしくないんだろ、って思った。三時間でも四時間でもお話ししたんだから、その人がこれから元気になるようなものを書かなきゃしょうがないだろ、と。とにかくあそこまでしゃべっちゃう人なんだから、そういう状態なんだから、こっち側で書いちゃいけないところを考えて守ってあげないといけないのに。あれを書いた人と会ったことはないけど、きっと話を聴きながら頭の片隅で、『あ、これもらいッ』とか点滅してそうな、なんかそんな感じがした」

  

AV女優(上)

AV女優(上)

 

 

AV女優(下)

AV女優(下)

 

 

村西さんと黒木さんがどんな関係だったのか、本人たちにしか分からない。いろんな噂がある。だから、「全裸監督」に書かれたような、信頼関係が構築された時期もあったのかもしれない。だけど、後の黒木さんの姿と、「全裸監督」黒木香の姿はあまりにかけ離れたように見えた。

 

◆伝説のAV監督、村西とおるの影の部分

全裸監督の作中、アダルトビデオだと告げずにモデルをつれてきたマネージャーに対して、帰れ、と憤る村西とおるの姿が描かれる。もちろん、事実として、そういったこともあったかもしれない。だけど、ちょっとよく書きすぎてないか、とわたしは思ってしまった。東良美季さんの「裸のアンダーグラウンド」で、AV監督、日比野正明さんは村西とおるさんと共に働いた時代について話している。

大抵の場合AVの撮影は、一作品を一日から二日、多くて三日かけて撮るのが普通だ。ところが当時のクリスタル映像、村西組では、五人から十人近くの女の子を九州や北海道という地方(時にはハワイやヨーロッパ)へ連れていき、一度に何本もの作品を撮影するのが普通だった。「何故かというと女の子を騙してたからだよ」と日比野は言う。「女の子は何をさせられるのかわかってないわけ。だから逃げて帰れない程強く遠くへ連れてくんだよ。もちろん『アダルトビデオ』ですとは言いますよ。だけど当時は今ほどAVに市民権無いからさ、女の子はアダルトって言われても何だかわからないわけさ。村西さんセールスマンあがりだからね(村西とおるはポルノ業界に入る前、二十代の頃は百科事典や英会話教材を売る猛烈セールスマンだった)、都合の悪いことは絶対に言わないわけです。ヨーロッパ連れてってあげるよ、北海道行くよ、ギャラはこんだけ出るよって良いことだけ言う。後で女の子が『セックスするなんて聞いてなかった』って言ったら『それはあなたが聞かなかったからです』って言う。聞かれたら私はちゃんと答えましたよ、というわけさ」

裸のアンダーグラウンド

裸のアンダーグラウンド

  • 作者:東良美季
  • 出版社/メーカー: 三交社
  • 発売日: 2018/09/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

出演強要なんて言葉がなかった時代。セックスをすると理解せずに現場にきた女の子たちをAVに出演させていた。当時と今では、世間の考えも、認識も違う。だから、当時の罪を、今現在、激しい言葉や、感情的な言い方を使い、一方的に批難することがいいとわたしは思えない。

だけど、それでも、その事実は消せない。女性側の意志を無視したことも、それによって当事者たちが傷ついたであろうことも消えない。たくさんの事実をふせて、「伝説のAV監督村西とおる」として、美化するような描き方に、すこしだけ違和感が残った。村西とおるのだめだった部分、よくなかった部分、そんな部分も含め、描いてもよかったんじゃないか。

 

◆盟友、日比野正明の話から見えてくる村西とおる

日比野正明さんは、「裸のアンダーグラウンド」でこんな話もしている。

ただね、タイヤモンド※の作品って、実はそんなに女の子に対して無茶はしてないんだ。村西さんもオレもね。画を派手にするためにでっかいバイプ使うとか、縛るだ3Pだ4Pだってのは少ないんだよ。少なくともオレは、女の子がカメラの前で初めて股間を開く瞬間、そのときの感情の揺れみたいなものにこだわって撮ってきた。それは今でも変わってない。

※ダイヤモンド:村西とおるさんが立ち上げたAVメーカー「ダイヤモンド映像 」

 

女性という素材を大切に扱い、最大限、美しく、エロく見えるように撮った。だからこそ、村西さんに「また一緒に仕事したい」という女性もいたんだろうと想像できる。だけど、わたしは、そこだけを取り出す描き方に偏りがあるように感じた。

「全裸監督」の原作者、本橋 信宏さんは著書「高田馬場アンダーグラウンド」で過酷な取り立てが噂になったサラ金グループ、杉山グループ会長、杉山治夫に関して書いた際、こんな話をしている。

多くの取材を通じて、私はどんな人間も多面的な生き物であり、完全なる善人もいなければまた完全なる悪人もいない、という結論に達したものだ。世紀の悪人に違いない杉山会長だったが、私は周りからよくあそこまで書いて無事でいられるな、と呆れられた。 

高田馬場アンダーグラウンド

高田馬場アンダーグラウンド

 

 完璧な善人も、完璧な悪人もいない。ならば、もう少し、広い視野で伝説のAV監督を描けたんじゃないかなと思う。

 

光文社から「オナホ売りOLの日常」という本を出版しました。アダルトグッズ、AVの営業として、普段の仕事について書いています。よかったらこちらも読んでください。

オナホ売りOLの日常

オナホ売りOLの日常

  • 作者:堀江 もちこ,菅原 県
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/10/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)