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「風俗嬢の見えない孤立」を読んだ

角間惇一郎氏の「風俗嬢の見えない孤立」を読んだ。
風俗嬢の見えない孤立 (光文社新書)

風俗嬢の見えない孤立 (光文社新書)

 
話題になっているみたいで、アダルト業界でない人から紹介されました。
たった1年と少しだけど、AVの業界にいて、セックスを仕事にする人たちとも接してきたけど、私自身働く人たちのことを分かっていなかったなって。彼・彼女たちがAVの世界にいったのでは、過去のなにかがあるはずだと思ったていた。だけど、角田氏が言うように、そのきっかけと、働く理由って千差万別で、意外ととるに足らない、彼女たちを知るうえで大したことないことなのかもしれない。セックスの世界で働いている人も、私が思っているより、私と違う箇所はないのかもしれないな。
 
ただ、なんとなく一か所だけ違和感があった。角田氏が他者に過去を開示しない世界を求めるという箇所。書籍のなかで、風俗嬢が自身の立場を開示しにくいことが、風俗引退後の仕事のハードルとなっているとまとめていた。たしかに、それは事実でしょう。

しかし、一方で、もし雇う側になったとき、立場の開示ができない人を信用するは、ハードルがある。相手の過去が分からない状態で、今だけでその人と一緒に働きたいか判断するのは、私はできません。怖いです。では、人に言いにくい過去を持つ人が、生きやすい世界とはなにか。それは、過去を開示した上で、過去を問わない社会だと私は思っています。

角田氏は、風俗で働く女性の相談にのったり、勉強会を開いたりといった就労支援を行っている。そこで、自身の考えが固まったり、知識を身につけたりする女性もいるでしょう。しかし、その知識習得も風俗勤務の経験の延長上にあります。それの過去を切り離して、現在の状態だけを説明するのでは、彼女たち自身が自分自身を語る内容に重みがなくなります。

この業界に入る前、求人情報サービスの企業に勤めていました。求人広告の制作部門でコピーライターをやってました。広告を作る際は必ずほしい人物像を決めます。年齢や性別を指定することもありますが、多くの企業にとって「なにをしてきたか」は重要です。企業が求職者の採用を行う際、見ているのは今の彼・彼女自身だけではありません。過去の経験が大切。しかし、それは、怪しい過去を持つ人をはじくためではなく、どんな仕事をしていて、その結果、どんな技術が身についているのかを計るためです。

角田氏の本では、風俗で働く女の子だけでなく、スタッフも外部とのつながりが希薄だと書かれていました。女の子同様、ほかの職種よりは転職しにくいかもしれません。では、たらればの話として、風俗店で働く男性スタッフが、デザイン制作会社デザイナーの求人広告に応募してきたという想定をしてきます。彼は、広告のデザインの技術がありますと主張したとする。でも、それだけ言われたら「受かるために出来るといっているのでは?」と採用側は疑う。できる根拠が薄い。そこで、「実は風俗店のスタッフで、お店のサイトや広告を作っていました。デザインソフトの使い方はそこで覚えました。広告を作り始めた頃は●人程度の集客しかなかったですが、今では●人になりました、これは実際の広告です」と説明すれば、一気に信憑性がます。たとえそが、いかがわしいものだったとしても、「できます」だけ言う求職者よりは、出来る感がます。

自分の技術や考えの根拠として、過去は大切です。しかし、一方で、その過去を理由にはじくことはしてはいけない。

私は、新卒採用の際、大学でアダルトビデオを研究テーマにしていたことを理由に、出版社から採用面接を見送る連絡をいただきました。大きな出版社ではないですが、扱う雑誌のなかには、当時、野党党首だった安倍晋三氏や石原慎太郎氏といった著名人のインタビューも掲載していて、影響力のある出版物を作れるように思ったんですよね。

わたしが落とされた理由になった「研究テーマ」のことですが、履歴書の罫線もないような小さな欄に、15文字程度で書いた簡単な内容だったんですが、そこを不採用の理由になったことにちょっと驚きました。定型文の不採用メールを送るだけでなく、就職エージェントを通して不採用の理由を伝えるところに、私を不採用にすることへの強いこだわりがあったんだと思います。アダルトビデオを研究していることで、落としたとどうしても言いたかったんだなって。
 
アダルトビデオの仕事が一部の人にとって憎悪の対象になる。新卒でアダルトの仕事に就かなかったのは、この経験も理由ひとつです。この仕事をしたら、嫌な顔をする人がいるということが怖かった。
 
学業を理由に不採用になることに違和感はありません。ただそれは、「深く調べていない」「課題に対して熟考できてない」といった技術不足を指摘すべきであって、テーマを理由にはじくべきではない。やっていないこと、できないことがマイナスになるのは仕方がないことだけど、やったことがマイナスになる社会は変えるべきだ。
 
とはいっても、人の考えを変えることは難しい。力をつけて「エロの世界にいたけど、すごいね」って言わせしめるしかないんですよね。わたしたちは。