オナホ売りOLの平日

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上野千鶴子先生、男性の生きにくさも語ってください。

東大生強制わいせつ事件をモデルにして、姫野カオルコさんが書いた小説「彼女は頭が悪いから」を読みました。「気持ち悪い」と何度も思いました。作品に出てくる加害者学生たちが人を見下す描写や、残酷な犯行に関して書いた箇所も、ですが、一番、気持ち悪いと思ったのは、主人公の女の子自身に関する記述です。

彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから

 

 

のちに暴行事件を起こす、東大生の彼に主人公の女の子が会いに行くシーン。急な呼び出しに慌てて出てきた主人公が、東大生の彼によく見られるために、電車で化粧をしようとするのですが、通っている女子大の教授が、電車内で化粧をするのをよくないと言っていたことを思い出します。結局、彼女は電車で化粧はせずに、駅構内の鏡の前でマスカラを塗りなおします。それを見つけた東大生は彼女に幻滅する。

わたしはこのシーンがとても気持ち悪かった。世間、学校の先生、親、友だち、恋人、すべてによく思われるようとして、結果みっともない姿を彼に見せることになる主人公を嫌だなあと思った。マナーを無視して電車内の化粧をすることも、急に呼び出しておいてバッチリメイクを期待するなんておかしいと、彼に対して開き直ることもしない。誰にでも嫌われないようにして、自分が傷ついてしまう女の子。無難にふるまって、結局、自分のほしいものが手に入らない女の子。そんなふうに、私には見えました。でも、きっと、この小説に書かれた女の子だけでなくて、そういった女の子は現実の世界にもたくさんいる。

 

上野千鶴子東京大学で話したこと

上野千鶴子さんが東京大学の入学式で話した講和の中にも、この作品の名前が出てきました。

www.u-tokyo.ac.jp

 

東大に頑張って進学した男女学生を待っているのは、どんな環境でしょうか。他大学との合コン(合同コンパ)で東大の男子学生はもてます。東大の女子学生からはこんな話を聞きました。「キミ、どこの大学?」と訊かれたら、「東京、の、大学...」と答えるのだそうです。なぜかといえば「東大」といえば、退かれるから、だそうです。なぜ男子学生は東大生であることに誇りが持てるのに、女子学生は答えに躊躇するのでしょうか。なぜなら、男性の価値と成績のよさは一致しているのに、女性の価値と成績のよさとのあいだには、ねじれがあるからです。女子は子どものときから「かわいい」ことを期待されます。ところで「かわいい」とはどんな価値でしょうか?愛される、選ばれる、守ってもらえる価値には、相手を絶対におびやかさないという保証が含まれています。だから女子は、自分が成績がいいことや、東大生であることを隠そうとするのです。

東大工学部と大学院の男子学生5人が、私大の女子学生を集団で性的に凌辱した事件がありました。加害者の男子学生は3人が退学、2人が停学処分を受けました。この事件をモデルにして姫野カオルコさんという作家が『彼女は頭が悪いから』という小説を書き、昨年それをテーマに学内でシンポジウムが開かれました。「彼女は頭が悪いから」というのは、取り調べの過程で、実際に加害者の男子学生が口にしたコトバだそうです。この作品を読めば、東大の男子学生が社会からどんな目で見られているかがわかります。

 

引用部分の前にあった「女子受験生の偏差値の方が男子受験生より高いことを証明しています 」 などデータがないため、疑わしく思う主張もありますが 、全体を通してみるとわたしは好きな内容です。女の子たちを 勇気づける前向きな話。

一方でこの講和に対し批判もあります。東大男子だからと言っていい思いをしているわけではない、という方もいます。しかし、恋愛や結婚に関しては、学歴が男性にとってアドバンテージになっている側面はあると思います。

国立社会保障・人口問題研究所が発表した「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によると、結婚相手の条件として、学歴や経済力を選ぶ女性は男性に比べて多い。もちろん、東大卒だからすべてに人がモテるわけではありません。しかし、「東大卒」の学歴が男性にとって、武器のひとつになるのは事実でしょう。だから、「東大卒」という武器を悪用し、「東大生強制わいせつ事件」のような悲惨な事件が起きた。

www.ipss.go.jp

こんな残忍な事件、もう起きてはならないと思います。だけど、それを防ぐためには、女の子側の意識の改善も必要だと思うんです。高学歴な人格者もいます。経済的に豊かで優しい人もいます。だけど、それだけをみて、相手を選んだらいけない。学歴や経済力はたくさんある長所のひとつ。それだけで選ぶと、失敗する可能性が高いって、女の子が分かったほうが良いように思う。

 

◆王子様という虚像を求める弊害

「彼女は頭が悪いから」では、主人公の女の子が東大生の彼を王子様のようだと思う描写がでてきます。わたしはこれも好きじゃなかった。遊びに行く場所や食事をする店もすべて彼が決めた通り。リードされることを求める姿勢が嫌だなって思った。会いたいなら自分から誘ったっていいし、行く場所だって自分で決めていい。主人公の女の子は、東大生の彼に従来の男性らしさを求めているようだった。自分を導いてほしい、決めてほしい、言われるままついていきたい。だけど、そういった男性に従来もとめていた「男性らしさ」を期待する以上、事件を起こした男子学生のような考えを持つ人は減らないように私は思います。期待する男性像を提供するかわりに、従来の男尊女卑の概念を求められる。

 

最近読んだ「わたしがオバさんになったよ」という本の中で、ライターのジェーン・スーさんが、大正大学准教授の田中俊之さんと対談していました。田中さんは、男性の生きにくさについて、研究しているそうです。現在、日本の自殺者の7割が男性。その背景には、男性は一生懸命はたらくのがあたりまえ、働いて疲れているのがあたりまえという考えがあり、男性を追いつめていると、田中さんは話します。

 今、日本で生きる女性が差別されている、認められないという声はよく聞かれます。医学部入試の件もそうですし、#metooでセクハラ被害を訴える動きもあります。女性が苦しんでいる。それは事実です。だけど、女性とは違った理由で男性も苦しんでいる。女性らしさを押し付けられた女性が苦しいように、男性らしさを押し付けられた男性も苦しい。女性には女性の辛さがあり、男性には男性の辛さがある。

上野先生は講和の終盤このようなことをおっしゃっています。

フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。

弱者が弱者のまま、尊重される。それは決して女性だけの問題ではないと思います。男性にある、弱い側面についてもやっぱり問題提起しないといけないよね